
はじめに
こんにちは、株式会社ACES でテックリードをしている福澤 (@fuku_tech) です!
Cursorでコードを書かせ、Claude Codeで設計を壁打ちし、テスト生成まで任せる。AIコーディングツールがこの1〜2年で一気に進化して、個人の開発スピードは間違いなく上がりました。
私たちもその恩恵を受けています。
一方で、ふと立ち止まると違和感がありました。個人の作業は確かに速くなった感覚はあるものの、同じ8時間の営業時間内でチーム全体の生産性が2倍になったかと聞かれると、残念ながらそこまでの実感はありません。チーム内でもベストプラクティスは共有され、一定程度の改善は回っていましたが、点と点が繋がる(体系的に積み上がっていく)感覚がなかったというのが正直なところです。
そういったモヤモヤの原因はシンプルで、人間が運転席に座り続けていることそのものではないかと考えました。
AIがコードを出力し、人間がレビューし、次に何をさせるか考えて指示を出す。この「判断→指示→レビュー」のループが、結局のところ人間の処理速度に律速されています。
人間が運転席に座り続ける限り、AIの稼働時間は人間の稼働時間に縛られるという構造を変えるには何を変えればいいのか。この記事から始まるシリーズで、その問いに対する私たちなりの整理と実践を共有していきます。
AI駆動開発の4フェーズ
私たちは、自動運転のレベル分けになぞらえて、AI駆動開発の進化を4つのフェーズで整理しています。
| Phase | 名前 | 説明 | 人間の役割 |
|---|---|---|---|
| 1 | AI Copilot | 人間が運転席、AIは助手席 | 全ての判断・実行を人間が行う |
| 2 | Hybrid Co-Driving | 運転席を頻繁に交代 | 判断は人間、実行はAIに任せる |
| 3 | Supervised Autonomy | 短時間、AIに完全に運転席を譲る | 監視とレビュー |
| 4 | Full Autonomous | 長時間、AIが自律的に稼働 | 意思決定のみ |

現在、世の中の多くの開発チームはPhase 1〜2あたりにいると感じています。GitHub CopilotやCursorのTab補完はPhase 1の典型例で、便利ですがあくまで人間の手の延長です。Phase 2では人間が作業を言語化し、AIに実行させる形になりますが、主導権はまだ人間にあります。Phase 3に入ると、AIが自ら計画・分解・実行を回し、人間は要所でレビューして方向を修正する「管制塔」の役割に移ります。Phase 4のフルビジョンは、多くのチームにとってまだ構想段階でしょう。
核心は「誰が運転席に座るか」
この4フェーズを貫く軸はシンプルで、誰が運転席に座るかという一点だけです。
Phase 1と2では、タスクの分解、実行順序の決定、品質判断等のすべての採配を人間が握っています。Phase 3と4では、その採配をAIに委譲する。つまり、Phase 2から3への移行が、最も本質的な転換点になります。
移行の難所
Phase 1から2への移行は、マインドセットの転換としては小さなものです。運転席に座るのは人間のままで、「自分で書く」から「AIに書かせて自分がレビューする」へのシフトだからです。実際、プロンプトを都度書いてAIに作業させるだけなら、すぐにでも始められます。ただし、それだけでは個人の使い方の域を出ません。一口にPhase 2と言っても、チームとして再現性のある状態に持っていくには、開発プロセスの分解、AIが動ける範囲の整備といった地盤づくりが必要で、この準備が成否を分けます。
Phase 2から3への移行は、まったく別の難しさがあります。「自分がやった方が正確」「自分がやった方が結局早い」という考えを手放し、AIに運転席を譲ってスケールさせる方に舵を切るというマインドセットの転換が求められます。ただし、マインドセットだけでは足りません。逸脱を検知する仕組みや人間が介入するタイミングの定義、品質を担保するガードレール等、安全に任せるための設計を丁寧に作り込む必要があります。
この転換をどう実現したか。それがこのシリーズの本題です。
5年目のB2B SaaSでの実践
私たちACESは、東大松尾研究室発のAIスタートアップです。AIを事業の中心に据えている会社なので、AI活用への心理的ハードルは低い方でした。ただ、開発におけるAIの使い方は個人のスキルや好みに依存していて、チームとして体系化されてはいませんでした。「あの人は上手く使えているけど、自分はいまいち」という温度差がある状態でした。
私たちが開発しているACES Meetは、会議・商談の録画データをAIで解析するB2B SaaSで、リリースからもう少しで丸5年になります。開発チームはPdM・デザイナーを含めて10名ほどの体制です。金融領域をはじめとするエンタープライズのお客様にも利用されており、会議という機密性の高いデータを扱うので、セキュリティ要件はかなり厳しいプロダクト特性があります。そうしたプロダクトでAI駆動開発をどう推進しているか、PoCや個人開発、新規立ち上げではなく、本番の実践の話を書いていきます。
なぜチーム全体の底上げを選んだのか
Cursorのように、少人数のチームから始まったツールが爆発的に成長する事例が出てきています。少数精鋭で大きなことをやれる時代が来ていて、目指すべき方向はそこでしょう。
個人が強くなるのは大歓迎で、どんどんそうなってほしいと思っています。ただ現実にはばらつきがあります。だから私たちは、個人が2倍になるのを期待するより、チーム全員を1.1倍→1.2倍…と底上げしていく仕組みづくりを優先しました。底上げされた土台の上でなら、個人が2倍になる速度も早まるはずです。
ちなみにこの考え方は開発チームに閉じるものではありません。組織全体に横展開すれば、100人の組織で1.1倍でも+10人分のインパクトになります。
現在地とシリーズの地図
自動運転になぞらえた4つのPhaseには、それぞれ向き合うべき問いと手放すものがあります。今日現在、私たちはPhase 3の入口あたりまで来たという感覚です。2025年12月に約1ヶ月の準備期間を経て2026年1月にチーム運用を開始し、わずか数ヶ月でここまで到達しました。下地の整備に集中的にリソースを投下したことと、チーム全体のモチベーションが高かったことが、このスピード感の要因です。
Phase 1→2: 「何をAIにやらせるか」
全部自分で書くというスタンスを手放すところから始まります。開発プロセスを分解し、AIが動ける範囲を広げる地盤づくりのフェーズですが、運転席にはまだ人間が座っています。具体的な実践方法は以下の記事で解説します。
Phase 2→3: 「どうすれば安全に任せ切れるか」
ここが最大の転換点です。「自分でやった方が正確」「自分でやった方が結局早い」という考えから脱却し、運転席自体をAIに譲ります。ただし、任せることと放任することは違います。安全に任せるための仕組みをどう作るかが問われます。設計思想と実践のリアルは以下の記事で解説します。
#4|P&T開発を回してみた — 成果と摩擦のリアル(2026/03/11公開予定)
Phase 3→4: 「壊れたときどう直すか」
「壊れないようにする」から「壊れても速く直せる」への発想転換です。AIが書いたコードを安全に本番へ届けるための仕組みと、その現在地を以下の記事で解説します。
#5|AIが書いたコードをどう本番に出すか — リリース安全基盤の設計と展望(2026/03/18公開予定)
1チームから組織全体へ
1チームの実践を組織全体に横展開していくための取り組みです。開発チームに閉じず、組織全体をAI駆動にしていく過程を以下の記事で解説します。
#6|1チームの実践を、組織の力に変える — AI駆動型の組織をどう作るか(2026/03/25公開予定)
おわりに
正直、私たちもまだ道半ばです。現在、Phase 3の運用を回しながら、日々試行錯誤を続けています。完成した成功事例ではなく、進行中の実践のリアルな姿をお伝えできればと思っています。
次回 #2|スラッシュコマンドで回す開発 — プロセスを分解してAIに割り当てる では、開発プロセスの分解とスラッシュコマンドへのマッピングというPhase 2の具体的な実践について解説します。ぜひお付き合いください。
ACESでは現在、複数のエンジニアポジションで採用を行っています。本シリーズを読んでACESの開発に興味を持っていただけた方は、ぜひカジュアル面談でお話ししましょう!
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